大分県 事業承継・引継ぎ支援事例
当センターにて支援した事業者様の事業承継・引継ぎ事例を紹介しています
大分市古国府4-1 tel.097-546-5580
シェルブール/株式会社フクール
地域に根ざした実直な経営を続けてきた老舗店が経営者の高齢化に伴って廃業を考えたとき、承継に手を挙げた異業種の若き経営者。
子どもから大人まで世代を超えて愛されたパンが、新しい発想と活力でさらにおいしく生まれ変わる。
創業家の思いを大切に受け継ぎつつ、自分の色を新しく加えていきたい。
株式会社フクール 代表取締役/松本麻衣子さん
企業概要
創業以来約50年、市内外に根強いファンをもつ老舗パン屋。常時100~120種類前後並ぶパンを目当てに、早朝から多くの客で賑わっている。第三者承継により、さらなる進化が期待されている。
承継年表
2020年センター登録、2021年事業承継
▼2020年4~5月 大分県事業承継・引継ぎ支援センターに登録。譲渡条件の検討、ノンネームにて候補先探しを開始。
▼2020年6月 候補先数社と、マッチング支援実施
▼2021年5月 松本氏とのトップ面談開始
▼2021年7月 両社が株式会社エリアパートナーズとアドバイザリー契約締結
▼2021年10月 事業譲渡契約締結、事業譲渡完了
廃業予定だった老舗を異業種から承継に名乗り
大分市民のほとんどが『シェルブール』の名前を聞いたことがあるだろう。市民以外でも夜、飲んで帰る前に都町店の灯りに吸い寄せられ、つい1個また1個とトレーにパンを乗せた経験のある人も少なくないはずだ。
はじまりは半世紀ほど前、都町にオープンした喫茶店。当時からパンのおいしさが評判だったそうで、創業者の渡邉哲子さんが神戸で修行したのちにパン専門の店へと業態を変えて市内数ヶ所に店舗を拡大。2018(平成30)年からは古国府店1軒に絞って営業を続けていた。
昔からの常連客を中心に、子どもから年配者まで、幅広い年齢層に愛されていた店だったが、哲子さんが高齢となり、ベテランのスタッフの退職等も影響して一時は廃業を検討。息子の一仁さんが代表として廃業に向けた手続きをする予定だったが、市内でも有名な老舗パン屋として今なお人気の高い繁盛店であることや、哲子さん自身の「できれば店を残したい」という思いを受け、大分県事業承継・引継ぎ支援センターに相談。廃業予定から一転、第三者承継に向けた取り組みが始まった。
「そもそも私自身が昔からパンが好きで、取引先に出向いた帰りに必ずここでパンを買って帰っていたんです。声をかけてもらえたのもご縁だと思い、事業承継に手を挙げさせてもらいました」とは、臼杵市で医療・介護用具販売などを手がける『有限会社マツモト・メディカル』代表の松本麻衣子さん。パンが好き、馴染みのある店。承継後のイメージがどんどんと膨らんでいった。
店の雰囲気、スタッフの意識、すべてを向上させていく
マッチング事業を担う株式会社エリアパートナーズとアドバイザリー契約を結び、2021年10月、松本さんが立ち上げた『株式会社フクール』への事業譲渡が完了。
「材料は妥協しない。でも、お客さんが気軽に買える値段で売る」という創業者のポリシーを確実に受け継ぎ、既存の全スタッフ継続雇用も成し遂げた松本さんによる、新たな『シェルブール』が始動した。
「初期の頃からのスタッフもいる中で、いきなり経営者顔して入るのは違うかなって思ったんです。まずは人間関係を作ることから始めようと、とにかく一人ひとりに積極的に話しかけることから始めました」。
皆のモチベーションを上げるためにエプロンを新調。店の雰囲気と歩調を合わせつつ、若い女性が手に取りたくなるようなデコレーションやラッピングへの変更も実施するなど、スタッフの笑顔ややる気をより一層引き出すことに注力した。「以前よりも店が明るい雰囲気になった」と、内外で評価も上々だ。
SNSでの発信を始めたこともスタッフの変化につながる。「こんなパンが食べたい」「このパンは何時に焼き上がりますか?」などのダイレクトメッセージが届くようになると、「新商品をアップしたい」「かわいい写真をいっぱい撮ってほしい」とスタッフ。客と店、相互のコミュニケーションが自然と取れるようになったようだ。
「大分にはなかったようなパン屋に、今よりもっと仕掛けていくつもり」。新オーナーは笑顔の中に強い信念を覗かせる。
サクサク感が持続する大きな具材入りのカレーパンや、水羊羹でコーティングした冷たいパンの”サーフィン”など人気パンがずらり。
スタッフは19歳から77歳まで、世代を超えて一緒に働きやすい、明るい環境。朝の開店時から閉店まで、客足が途絶えない繁盛店は、地域住民だけでなく遠方からのファンも多い。
毎日、100~120種の焼きたてパンが店頭に並ぶが、昼前すでに売り切れてしまうほどの人気商品も多数。時代性や客層を意識した新商品の開発や、既存商品のブラッシュアップも積極的に行っている。
18歳の時からこの店のパンを焼き続けているベテランの店長をはじめ、前オーナー時代から働いていた全スタッフの雇用を継続。気心が知れた仲間だからこその連帯感も老舗の宝だ。
支援内容:有名な老舗パン屋の第三者承継支援
大分県事業承継・引継ぎ支援センターへの登録を行った後、事業価値の算定と譲渡条件の検討を実施。企業概要書を作成し、ノンネームにて買い候補先へ情報提供。数社とのマッチング支援、トップ面談を実施し、双方からの問合せや情報提供等の仲介作業を行う。2021(令和3)年6月に臼杵市の松本氏と本格的な譲渡交渉を開始。
総合的なマッチング実務を担うアドバイザリー株式会社エリアパートナーズを紹介する。アドバイザリー活用が対象となる大分市「中小企業者事業承継等支援補助金」の申請、交付決定までを支援。同年10月、松本氏が立ち上げた株式会社フクールとの不動産賃貸借契約の継続作業を含めた事業譲渡が無事に完了した。
支援効果:多くのファンに愛されているパン屋の事業継続が実現
全ての従業員の継続雇用が実現。店舗販売のほか、外販やネット販売等の販路拡大による業績の向上が期待できる。新社長となる松本氏はパン事業の開業に意欲的だった事もあり、現店舗の手直しを始め、今後は様々なアイデアを具現化し、老舗の良さを残しながら、これからもお客様に愛される新しい「シェルブール」と進化する可能性が高い。